遠浅の死海。

文字の海に溺れて死にたい。幸福の国。

栄養価の高い関係性

人前では泣かないと決めつけていた君が、泣きそうな顔で星を見ている。空はもう明るんでいて、梟はさっき捕り逃がした獲物の夢を観ている。コンクリートの地面に繁殖したこの森は、君が秘かに流した涙だけを頼りに生きながらえていて。それは一見((冷たかろうと言われるような温もり)でも)血が通った何かであることは、僕が死んだ後にでも証明してみせる。働くコトと生きていくコトとの境界線はどこの国にも見当たらなくて、暇つぶしで遊んだUFOキャッチャーにつぎ込んだ金額をだらだらと思いかえしてみる。あと少しだけ休んだら庭の手入れをしようかという気持ちになったけど、結局は恥ずかしくなって目を閉じる。眠り声がそこら中でささやいて、胸の空気が抜けているような錯覚に陥る。あれは遠いカスタネット。電車をいくつか乗り継いで、息を止めながらでないと辿り着けない深海。僕はまつげを数本抜いて、それを ふうっ と足下に植える。真面目な顔で毎日の朝を出迎えては、守りたい存在とは一体何なのだろうかと考える。笑い声は多分に必要ないからといって、携帯電話がメガネの代わりになってしまった世界を咎める資格はないのだろう(僕には。困難に抗う人。混沌に立ち向かう人。僕は「そうじゃないんだ」と言いたいんだ。生い茂った電飾に守られているうちは、人間であることにも自信がない。そう言ってしまえば凡てがまるくおさまる気がします。やり直したいゲームのデータを念のため複製しておくような君と僕には、共通点なんか無い方が良かったのかもね。あーあ。紙でできた故郷に帰りたいな。生まれたばかりの言葉のにおい。生まれたばかりのページの音。生まれたばかりの手触りに感動できたあの故郷に。人知れずパンを焼いてインスタントの珈琲で思考をブレイクする。飲み込んだ時に感じる生命的ではない暖かさが、初めて君の手を握った時のそれとよく似ていて 好きだ と思った。目を開けると太陽はそれなりに元気そうで、特に話しておきたいこともないと言う。弱火で熱せられた朝顔のスープに君の(おはようって言いたげな)顔が反射して、綺麗以外の何ものでもなくなっていた。それからというもの、僕はもう。君以外の前では泣かないって、「「絶対絶対「約束したい」」と。スープを飲み干し、独りごちた。

 

「栄養価の高い関係性」 詩:斗掻ウカ